【背景】
センサリーアウェアネスの源流は一人のドイツ人,エルザ・ギンドラーに始まります。ギンドラーはハーモニック・ジムナスティック(調和体操)の先生でした。ある時,彼女は肺結核に罹りました。当時は空気のきれいな山にあるサナトリウムで療養する以外の治療法はありませんでした。お金のなかったギンドラーには叶わないことで,医師からは死を宣告されたのです。彼女は考えました。肺はふたつある。ひとつの肺が病気なら休ませればいい,もうひとつの肺で呼吸をすればいい。彼女は完治し,医師は「奇跡だ」と言ったそうです。
ギンドラーは自分の見つけた方法を人々に提供するようになりました。その方法に名前はつけませんでしたが,多くの人が彼女のもとで学びました。その中にはモーシェ・フェルデンクライスもいます。ギンドラーの弟子の一人,シャーロット・セルバーがアメリカのニューヨークでギンドラーに学んだことを教え始めました。後年セルバーは,自分の提供するワークを「センサリーアウェアネス」と名付けました。
さまざまな人がギンドラーとセルバーに学びました。ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズもその一人です。フリッツの妻ローラはギンドラーに学んでいました。二人はニューヨークでセルバーのもとに通い,感銘を受けたフリッツは2年ほどセルバーのワークショップで探求を深めたということです。セルバーは1963年にエサレン研究所に招かれ,エサレンで教え始めることになり,身体・心・精神に関わる人間の可能性を探求しようとする人々や療法に大きく影響をもたらしました。
【プラクティス】
センサリーアウェアネスは人間が生きていることのベースにある普遍的なことを扱っています。人間は有機体であるということです。有機体はその時,その時に応じて動き続けています。地球も,植物も,動物も自然界はみな同じです。違うのは,人間はそのことを意識することができる,ということでしょう。知性があるからです。今ここに存在している自分が,その時,その時にどのように応じているのか,どのように生きているのか…
内なる声,身体の声は今この瞬間に何をあなたに語りかけているでしょうか…
ここには正解も間違いもありません。一人ひとりが,ただ自分を感じ,ありのままに体験する場が与えられているのです。ワークを通じての探求が終わると,私たちはサークルに戻って,それぞれの体験をシェアします。「たったこれだけ」とも思えるシンプルな探求方法ですが,それが実に奥深いことに驚きます。シェアを通じて,本当に一人ひとりが違うことがわかります。共感する時があったり,驚きがあったり,感動したり,笑いがあったり… ゲシュタルトのシェアの場も同じですね。誰もが表現すること,しないことを自分で決め,ひととき共にサークルにいる。誰もがありのままの自分を体験する場,誰もがありのままの自分でいることを許されている場です。
この探求が,一人ひとりの必要に応じて,日々をいきいきと創造的に生きる自在さ,しなやかさを育むプラクティスとして役立つことを願ってやみません。